熊野関係古籍     熊野古道

小原桃洞 熊野中邊路採藥巡覧記

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小原桃洞

  熊野中邊路採藥巡覧記                               


 此の記は小原桃洞熊野記で、田辺田屋謙吉氏の藏本。
 昭和五年十月より三回に渡って、「紀伊央談」誌上に連載せるものより寫す。
 勿論之について同記文と田屋謙吉とあるのみにて、一向不明なるも兎に角熊
 野路行脚の記であるが、完本ではないらしいが筆写した。

 小原桃洞 
  名は良直・通称八三郎、桃洞は其の号。小官以て世々本藩に仕ふ。幼にし 
  て本草の学に志し小野蘭山の門に学び、曾て師に附属して熊野・日光等の 
  山岳を踏渉し、草木・花卉・禽獣・虫介を観察、其の薀奧を極め、藩の草
  局を開設せらるヽや其の局にあたる。以って盛名を赱す。畔田翠山・山中
  信吉・上辻但萸等其の門に学ふ。天保四年その孫蘭峽、祖父の遺稿をまと
  め「桃洞遺筆」を刊行す。

  尚「漁譜」及び「介譜」遺あり。


  「漁譜」 は河魚七一種(鯢魚サンショウウオを含む)、海魚三二九種(鯨・鯱・海
       豚・烏賊・海蛇魚音魚類を含む)・其他二十二種(海蛇クラゲ沙嘴ナマコ
       ・石勃卒ホヤエビの類を含む)計四二二種の名称・紋理・形状等を
       詳細に記し、特に紀州産のものに至っては、当時の俗信及び方
       言等克明に記述されてあり、其の写本の巻末に左の如くあると
       いふ。
         文政紀元年  謄写 於若山府水門
                       小原氏芳□軒中


  「介譜」 には□カツオブシムシ二二・蚌一一〇・蟒一〇八・螺四四・鑚螺一五竹
       螺二〇〇・沙螺一一・刺螺一五・拳螺七・□螺八・丁螺三斑
       螺一二・苞螺三・扁螺三九・車螺七・花螺二〇・米螺四・螂
       螺三三貝歯五〇・無対二七・異形五二・石花一一・石類四・
       活物五 外附録一七 合計二四類 六四七種          
   左記述されてゐる。共に田辺鈴木房次郎氏の所藏なりと。
   此の紀行の時すら不明であるのは遺憾である。  

   「紀州物産考」小原良直の書かと思はると「南方全集」巻五一六二頁 
   桃洞遺筆第一輯三巻の中に記入せる遺稿として
    刺鯨聞見記・鯨志正誤・花彙正誤・南海魚譜著ある由見ゆ

                         和田 喜久男    


熊野中邊路採藥巡覧記

     小原 桃洞記  石田 盤谷手写

 
  一、若山広瀬 より一里十六丁内原迄
         人足四十文
  一、内原村  馬継人足市ノ坪迄六十文
         一里十四丁
    藤白村  是より加茂谷へ一里
         此間に藤白王子権現の祠あり、東の方に亀井鈴木の屋敷あ

         り。跡峠藪構の内にあり
         祠の辺に樟の大木あり
         藤白坂上り廿町阪の半より上ミ左に金岡の筆捨松あり峠に             地藏堂並開山の石塔あり十五丁下りて橘本村なり
     △椅樗   鳥韭ホラシノブ
           和名
     △陰陽茶  俗名ヒノキツバキ 峠に多あり今は絶たり
     △エヨハダ石 温石 坂の下り口右手にあり(延喜式典藥式
     △扁眼の鰻驪 紀伊国温石)
  一、市の坪村 馬継人足宮原迄四十八文
     右に岩屋の観音道より紀州西国一番の札所なり
    裏見瀧
     △獅子蘭 三ツ葉のものミツホドに似たり師説にはトチハアケビの
          初生ならんと云
  一、加茂谷  是より宮原へ一里半
     △沓掛にも温石あり藤白に同じ
     △沓掛の阪左の大石の下滑石あり
         かぶら坂上り廿五町峠に茶屋あり右に淡路山近々に見ゆる
         むしまへ渡り三里といふ下り廿五丁阪中に弘法大師爪にて
         彫りし阿弥陀地藏あり
  一、宮原   道村馬継湯浅へ一里半人足四十八文
         道村より左へ行道を小原越といふ若山へ出るなり
    市木峠道 ヨシ峠を下りて小原馬継なり
    長保寺村 丁村黒田塩津是より和歌へ舟渡し
    宮原より十七町行て中番村此間に道田川あり(道 有の誤)
         水源は高野山より流るヽなり
    糸我峠  青柳の糸我の山の櫻花都の外に錦をぞ見る 爲家
     △石卵ありと云ふ又名島村能仁寺境内大石の中に石卵ありと云ふ
      又須原村施無畏寺山中にありと云ふ(須 栖の誤)
    道川ノ王子いとが山の南麓にあり(道 逆の誤)
    吉川村  ホウズ峠二十丁行て
  一、湯浅   馬継是より井関へ一里人足廿六文
         旅籠屋三十軒許あり
     △金チヽリ 即蛇含石の下品と云ふ
     △貝石   下品地ノ上庚申山又小山谷とも云ふ即池の上の持山な
           り
     △松の皮石 産所不詳
     △シノブ石 同上水谷にありと云
     △浦葵ビロウ 廣八幡の社内
         宿の出口に川あり土橋二十間余あり直に行ば広村の道なり
         左へ行く道本道なり川あり大水には右に廻る
         宇田村梨間村中村トノ村
         井関村即広川の上なり
  一、井関   馬継原谷へ二里人足六十四文
         人家間ばらにあり ○五ノ瀬迄十三丁稲生の祠あり
         川あり五ノ瀬村是より鹿ガ瀬峠三十町ツキ谷廻りの道後に
         あり難所なり
         五ノ瀬川鹿か背峠下り麓迄廿町
         麓より原谷まで三十丁
     △マメフジ
     △「方言の谷ワタシ」猿筵花に非す方言コメ/\とも云蔓の如シ 
         茶莖長シ三月結実
     △□藤  サルトリフジ  △山燈心
     △タブ          △山礬 ハイノキ
     △楊櫨  タニウツギ   △梅  ウツギ
     △土樂樹 コマノキ    △三葉 ツツジ
     △ヘミノ中        △樊膾艸
     △免児傘 ヤブレガサ 
           又五ノ瀬より腹ビへ出る道あり銅山あり(腹ビ蛇ビ尾な
           るべし)
    □五ノ瀬よりツキ谷廻りと云ふ往還あり難所にして駕不通藤瀧へ出る
          又藤瀧越と云は道成寺へ出るに一里も近し
         藤瀧より道成寺へ廿四・五丁也千壽川にて百姓家に止宿も
         なる丸岩と云深山あり岩耳等も出る藤瀧越は人馬共往来な
         り
  一、原谷   馬継是より小松原へ二里・一里半とも云平道なり人足四十
         八文
     △紫竹あり
    東光寺村 萩原村八幡宮あり
         右に丹生山見ゆる城趾なり(丹生山は入山なり)
         王子権現の社あり此所より左へ道成寺道なり
         右は小松原道なり
    東光寺  衂血藥焔消に辰砂を加ふる物也
    道成寺  十一面観音堂は七間に五間あり鐘樓の跡あり茂りたる木あ
         り寺の前によき茶屋あり富安へ行道あり横道多し
    茨木   大溜の池あり富安上下二村あり八幡の祠あり
  一、小松原  馬継是より印南美へ二里人足八十一文
    タカラ村 島村是より塩屋へ廿丁
    薗御坊
    日高川  天田川とも云海へ近し浜辺を行
    天田村
      △代赫石 日高亀山に産す
     △ナギ茶 薗の東の山にあり
     △河辺氷石       △海鹿
    北塩屋村 上野へ廿丁  南塩屋村
    塩屋峠  原井戸村日比に対す(日比は日ノ岬か)
         此間に十三塚草履塚さヽやき橋なとあり
    野島   磯辺上野磯辺いなみへ廿一丁
           いく塩路由良の湊を溝ぎ出ぬ
                 上野の鹿の声かすか也  覚助法親王
     △大戟          △文珠蘭
    楠井   清姫の腰掛石あり磯ばた
     △甘豼  此辺より処々にあり△土 萋藤
     △イリマメ
    津井   叶王子の社あり
  一、印南   馬継南部へ二里半人足八十二文 宿屋十二・三軒
         川あり左に王子権現の社あり
    切目坂
    切部   島田村という榎坂峠を下りて中村立場
         南部へ二里十丁町屋有一里半行て岩代なり
         橋ヶ谷と云 左手切目王子の社あり
    岩代村  大川有

         結すびの松 二本あり
                           曽根好忠
          我事は之もいはしろの結び松千年を經とも誰かとふべき
                           人麻呂
          岩代の野中に立てる結び松こヽろもとけず昔おもへば
     △車輪梅          △猿筵花
     △蠅取草          △イソマメ
     △ツツラフシ 山字茶    △潮風艸
    片倉峠 櫻茶屋 千里観音あり
        下りを南部峠といふうねり南部へ一里
     △齋燉樹 イソノキ 山×ありと云(×に欠か)
     △金牙石 櫻茶屋辺にありと云
    千里浜
     △珊瑚沙          △石炭
     △鉄礦  メゾの浜
    南部川  舟渡し
  一、南部   南部村と云 馬継 田辺へ二里人足四十八文
     △欝金  玉井医師の持山にあり又瓜谷の和七方の持山にも有
     △盆石   古屋谷にあり是より三里余と云
          古屋谷組澤村カイ谷
          東山村此辺の谷川にあり伊オ谷田辺へ出る
           桑谷にもあり南部より一里許り也
          瓜谷にもあり先年桑谷の半介と云もの能知るもの也
     △蘭山子 献上に山田村の土殷蘗あり山田村は此辺ならん
         又南部より瀬戸へ舟渡し大辺路越なり 後に記す
    椿坂
    堺の浦  南部より十八町也 此辺より浜辺を小舟にて田辺へ乘る舟
          一艘銭五・六十文にて借也 気遣なし
    元島ゑぼし島牛の鼻と云岩穴あり渡りを過て川あり橋三十間程なり
     △太乙餘糧 堺浦浜辺にあり禹餘糧は街道より少し左の山手にあり
    芳養村  ハヤ川橋あり川向もハヤ村也
         大辺路朝来迄人足一人四十八文 城下馬継より三栖へ一里
    田辺
         三十二町 人足一人
      安藤帶刀殿城下也 三万五千石
         町家多し是より丑寅に向ひ行此間に川ありかり橋なり
    下三栖
      △髮邊嬌 ハコネウツギ ヲシロヒエ ワクザイニ有
    中三栖
    上三栖  芝村二里半 人足
          長尾坂上り一里半茶店あり塩見峠也
         田辺の海能見ゆる峠より下り左大廣野坂と云
         谷川有右へ廻り宿有
     △コバンノ木        △マメフジ
     △齋槨樹          △山礬
     △秦皮           △シテノキ
     △ニベノキ ノリノキ
     △ウリノキ 木の中心虚也葉大にして三・五尖四月葉間水松の如き
           もの出づ色白しウリの気あり
     △山燈心          △林□山 白ムメモドキ
     △兔兒傘          △薇□  ハンクワイ艸
    廣野坂  コカイ村山手にあり
    鍛冶屋川 即ち富田川の上也
     △禹餘糧 カジヤ川両岸にあり大なるは二・三尺小なるは七・八寸
          又黄の脱したる跡に二・三人も座すべて真に奇石也
    三番組なり 馬継 高原へ半里人足
  一、芝村   宿屋十四・五軒あり
         大川あり是も富田川の上也
     △ダイサギ艸萎□ノ羊乳様・貫衆・鉐石・蕎麥葉貝母
  一、高原   馬継 近露へ二里半
    十文村  十文王子権現の社あり
    近露川  廣野川とも云舟渡し川上一里許あり
         即ち日置川の上なり
         若一王子の社あり
     △カキノハグサ 巴戟元一種 △トチ柴
     △ワタカヅラ        △シラ木
     △ウコンバナ ハタウコン白文字葉三尖五尖圓もあり奧あり正二月
           花を開く山菜黄の花に似たり細花聚と淡黄色也
           後實あり
     △コバンノキ ヌキハギとも云葉金紗梅に似たり互生す四月葉に五
           辨紫花一処に二・三花有臭あり
     △アサガラ 葉形女青に似て薄く枝梢に三・四聚りつく三・四月梢
           葉間に穂あり花多く下垂す白色也其茎堅実なれども軽
           輕くして麻骨の如シ
     △ホウノキ 此の類十文字峠上り下りに多シ
     △胡菫艸  エゾスミレ 近露川の手前峠を下りて麓にあり
     △ヤレヤビシャコ
  一、近露   馬次野中へ丗九町人足 是より野中まで山の畔なり
         比曾原王子の社 手枕の松あり
  一、野中   馬継湯川へ二里十五町人足
     △ムラダチ 沈香の木日高
     △コシキ  一名ウスノキ小木葉互生蒼松葉に似て厚く小く鋸目あ
           り葉間白花あり子三・四分六角にして上凹臼の如く棘
           刺あり熟して赤し
     △イハグルマ モチノ木と云大峯にてモチノ木と云高丈余長葉二寸
           半巾寸計り先細尖鋸歯あり口口対して二・三條互生す
    王子権現 若王子の社
    野中一本磅瘡ゥ明大明神
    秀衡のツギ櫻
    小坂あり 小廣坂と云茶屋あり
    熊瀬川  茶屋一軒あり
     △カキノハグサ
     △赤竹麻
     △七葉樹  トチノキ
     △ホウノキ
    峠を女夫坂と云岩神坂とも云
     △馬背石 路傍にあり岩神王子社
    見越峠  峠に茶屋二軒あり是より新宮領なり
     △麝香草 多し
  一、道湯の川湯の峯二里 本宮へ三里
         此の処より湯峯まで近山路なりカネの阪上り八町茶屋あり
         左へ行かば本道なり右の細道は湯の峯道也
         山の崩れあり難所也
         ハネ山と云鐺はり峠大雲取巽の方に見ゆる
         本道あり湯の川より発心門へ一里
         玉の瀧小き瀧也 猪の鼻の王子社あり
    発心門王子 水呑の王子
    発心門
  一、伏拜   馬継 本宮へ一里 人足
         伏拜王子
     △チゴラ石 大石に乳房あり乳病を祈るは効ありと云栗木谷に上る
           道より見ゆる右手也
     △亀甲岩 堤谷にありと云一丈許り
     △水精  下品水精坂にあり
  一、本宮   請川へ半道 人足
         新宮へ川舟九里八町一艘十二匁と云
         本宮伊弉丹尊也崇神天皇六十一年始祀る
         本地阿弥陀脇立十二社権現巽向門の東辨天門の左右に大黒
         天役の行者(大師作)奧院地主権現音なしの天神和泉式部
         の石塔後白河法王の石塔又本社の前に神楽堂あり玉置三所
         権現此外参詣所多し音無の里は本宮の内の名也川あり此の
         里の後より流出て御社を過て南の方へ熊野川に入る瀧は音
         無の北方にありなほ山と云より北へ瀧落る之を音無の瀧と
         云由土人の話也
    本宮辺
     △ハヅサ ウカンバとも云
     △大葉の山椒ヅル
     △大山ハコベ 方言唐人カヅラ小児の瘡下しに用ふ
    受川
     △赤石
     △二重咲のサツキ
  一、湯峯道  本宮より一里計 車峠より八丁計
    湯ノ峯  東光寺藥師堂あり
         留湯 中ノ湯東光寺の底より湧き出づる
         男湯 非人湯二つは道の傍より湧く也
     △湯の花 奇品なり    
         川舟九里八丁の内名所多シ四里許行て楊枝村あり京佛三十
         三間堂の梁になりし柳の株あり其上に藥師堂を建てあり五
         間に八間なり
         向糸の瀧見事なり其外瀧数多し今庖丁石マナバシ石絹巻石
         陰陽の二石あり
     △ホウキ蘭 浅利組比丘尼コロヒの妻手にあり
     △小豆根  大庄屋尾崎忠左ヱ門産処を知る
     △ワタカズラ 同上
     △タツシノブ 檜枝にあり
  一、請川   小口へ三里 是より阪あり即ち小雲取也
  一、小口   那智四里人足 是より川へ出る道あり
    榎木村愛須村日足村即川端なり
     △黄連   芹葉日足にあり
     △シンフリ
     △朴樹   是より多シ
     △麥斛   小口村の山にあり道の傍なり
     △川前胡
     △ツルリウタン
     △油點艸
  一、楠ノ窪  馬次人足 大雲取なり
  一、エツセン茶屋 茶屋一軒あり
  一、石倉   茶屋二軒あり
     △鳥の足水木 一名クマノ水木
            水バシカ
            キノメ
     △車水木
     △白石脂
  一、地藏茶屋
  一、甲斐モチ茶屋
     △細葉エビキ
     △カウジラキ実形茶実の如くにして油あり葉はシラギに似て小なり
           互生す枝幹共に紅紫那智山人も知らず
     △モトギ  花五辨淡紫色
     △石英   下品
  一、舟見峠
           小木なり中心虚なり葉は桐に似てキレコミなく五尖あ
     △ウリノ木 り四月葉間に花白色形金紙花未だ綻ざるが如し醤瓜の
           香あり古説大空に充つ非也            
  一、登り上り 茶屋
     △瀰猴桃  シラクチ
     △木天蓼  マタゝビ
     △ウコンバナ
     △山礬
     △コシキ  野中宿の下にあり
     △ウクイス
     △山マ桐  タヅト云
     △トチ柴  クサアジサイ
     △モミヂ艸
     △鬼督郵  紫背
     △龍膽ノ一種
     △螺化石  雲根志
     △石炭   雲根志
     △鐘乳   同上
     △人参
     △七カマド
     △綿鷄兒
  一、那智    是より浜の宮へ五十町
          泉津事解男之神を祭る如意輪観音堂九間四方巽向也
     △榕樹   崋表の左にあり土人唐木と云花は梅花の如く白色実は
           大さ無 串の如く皮色青く冬に至て裂て子の色赤し桃
           茶衞芬實の如し 日向高知國の峯にも在りと云チガ玉
           の木と云海桐花の類なり 蘭山先生の説
    下馬より十八丁二王門(下乘)より八町行て瀧あり右に銅山見る
  一、瀧道    二ノ瀧見事也 三ノ瀧 布引瀧 屏風岩 樽岩 ナメリ
          ノ瀧 文覚ノ瀧 其他瀧多シ
        身につもる言葉の罪も洗はれて心すみぬる三重の瀧  西行
    不動堂   花山法皇庵室の跡あり
        木の本に住けん跡を見つるかな なちの高根に花を尋ねて
     △水源頂上に亀石烏帽子岩あり
     △鬼瘁@  大木なり
     △搖珞ツツジ
     △スノキ  方言屮ズ岡ズ小木枝上三葉一処に互生シ葉美にして細
           長く細鋸歯(?)あり微に酢し□□あり鋸歯なきも
           のあり                     
     △牛ボッコウ葉長二寸巾六・七分尖細く鋭り鋸歯あり互生すメヒラ
           キに似たり
     △黒かねかづら
     △白棠子樹
     △コバンノキ
     △シラキ
     △石楠花
     △エビショカヅラ サンカクカヅラに似たり葉に甘汁あり
     △トチ葉艸 天人草とも云秋茎を抽穂花淡紅蕊長し根連る
     △黄花油点艸     
△岩ツバキ
     △萸連 芹葉 五加葉
     △麦斛
     △ツルシノブ
     △鳥韭   ホラシノブ
     △ヤマウグイス
     △苦苣苔  イハタバコ
     △アサマ葵
     △貫衆
     △山ミカン ツリ花也
     △麝香艸
     △ツリカネ
     △川セミ  日光の山スズナリ
     又ウ子谷に水精多シ
    妙法山   女の高野と云
     △鐵沙
     △石英
     △瑪瑙   雲根志紫赤のもの
     △石脂   同  紫赤のもの
     △滑    右同 紫赤蒼
     △金星石  同
    長野山   銅穴あり
     △礬石
     △鉄沙
    勝浦
     △礬石
     △鷓鴣菜  上品
    天満    茂十郎者に十七・八年前井戸より奇品を得る
  一、浜の宮   宇久井へ一里又五十町
          当宿は道者坊宿なり町家ならず
          浜の宮明神三社 千手観音堂(補陀落寺と云)
          大くし峠 小くし峠二つ共小阪なり
  一、宇久井   三輪崎へ一里半道
          大(丈)夫松 孤島稲荷社 二位ノ尼の石塔
          中山島 なべしま 地獄畑
          目覚島 目覚崎不はす嵐のはげしくて
                      松の梢にねいらざりけり
     △朱欒石  地獄畑
     △蛛の巣石
     △竹畫石
     △鉄重石
     △延胡索
     △蛇牀
     △ナリノテ
     △水スイ
    佐野村   村の入口に辨天の社あり スズ島久島等あり
     △瑪瑙   纏孫
     △麻石
     △七カマド
     △仙茅   雁か森に多シ
     △細葉の白前
  一、三輪崎   新宮へ一里半
          ミダイ阪 みたらひの浜 唐津の□ 南谷
     △仙茅
     △栗蘭
     △蜈蚣蘭  小野田阪松原の柿の木に多し
     △棒蘭
     △省沽油  冬は葉なく春新葉を生ず三つ宛つきて随軍茶の如し
           先光両対する枝梢に花あり四辨にしてウツキの如し
           実はカリマタの如し二つ宛あり巾濶く葵ならびいく中
           に種子あり
    除福社   飛鳥ノ宮 黒狐ありと云
    神の倉   立像権現 脇立は十一面観音 愛染明王堂は南向六間に
          十一間 大岩に仕掛あり不階二丁半急也
          続古今                入道太政大臣
           三熊野の神倉山の石たゝみ 昇りはてても猶祈るなり
      △一種龍組
  一、新宮    あたはへ二里 人足成川へ七文
          水野筑後守城下なり 三万七千石
          速玉男之神を奉る 古今皇代圖に景行帝五十八年建
          熊野と云 藥師堂巽向 脇立十二社権現
     △ヲカタマノ木 小間物屋伊右ヱ門方にあり
     △雷枕   有井大監方にあり長二尺七・八寸周り七・八寸
           形傘の如し 両端にキザあり質青き石也
           甲州の産
     △雷斧   同人所持
     △花カゴ石 甲州千足村□□ 同人所持
     △ハマカニ 漢名石涸全体は饅頭の如し鉗大也形小異あり目のフチ
           に弁口口赤色あり
     △セイ   石螂の一種弄貝家藤花と云大さ二寸余長シ 淡泊色老
           澤あり内より内足数十本を出す 之を揺せば手に從て
           縮み入る 海底の石に生す海草の類ならん
     △彌猴桃  新宮近山
     △拓
     △山礬
     △釣藤   飛鳥社あり方言ツリバイ
     △コバンノキ
     △皐盧
     △土欒樹
     △七カマド
     △ヒラギ蘭 切畑屋にあり
     △漢防□  飛鳥社
    音無川   渡銭一人前廿五文
    成川邑   井田へ一里 人足廿文 氏神社あり
     △ホウキ蘭あり
    上野
     △紫花玄參
    塢殿    宮山にヲガタマ 杜莫山 虎刺
          センマイシノブ 花戸口番 神と云非なり
     △ジュズ子ノ木 宮山にあり
     △玄參
     △甘□
     △仙茅
    井田村   あこわへ一里 人足廿文  (こはたか)
          悪しき川あり大水には舟渡り
  一、阿多和   馬継 市木へ一里 人足廿文
          有馬へ二里半
          此の間二里の間松原なり いけべの松原と云
          川二つあり悪き川なり
    花の岩屋  伊弉丹尊の葬地なり大盤石に白ゆふた懸有
            神祭る花の時にや出ぬらん
                 有馬の村にかゝる白ゆふ   光俊  
            紀の国や有馬の村にます神の
                 手向も花いたへしにを思ふ  貞能  
    あらんの岩 鬼ヶ城と云ふ大岩あり
          親不知子不知といふ浪打際あり
     △水たま  ムカデ科に似たり
     △ニシキシヤウ 花戸艸
     △ウマヤナギニ似ル木
    又有馬より板屋越といふて本宮へ出る道あり    

    有馬より串屋村へ「三十四丁人足廿八文」串屋より神木「一□□□□□□」
    神木より御領なり阪本へ「一里人足廿八文」阪本峠あり禹餘量あり
    阪本よりおろしへ半里 返り阪へ半里 大栗栖へ半里
  △印上野へ「十八丁十二文」上野より大栗阪へ「一里十一丁廿文」
   (舟渡本宮にあり後に記す)    (谷川六ツほどあり板屋阪あり
   大栗阪より板屋へ「十六丁廿四文」

   大河内へ「一里十一丁六十八文」   
       △印産物後に記す
      此の辺に山桐タツとも云ふあり イチマあり 
   
    大河内より楊枝村 楊枝村より「六歳阪峠あり板屋阪あり」
    津和高山
    請川本宮
     △礬石   楊枝コメぐ山
     △アフラキ 万歳峠 葉冬青に似て細小互生す
           夏月小白花を開く 秋實を結ぶ櫻實に似て茶色 
           木皮油あり山冬青の類なり
    大馬道   は有馬より十八町井キ村上床柳井土より三十五町にして
          大馬なり 北山街道にて道は廣し 然れども山阪甚峻し
    大馬山   草木茂り深シ
          天照大神 八幡宮 春日の三社あり


  本書は和田喜久男氏の手寫本より寫す。書の内容等につきては和田
  氏の序に明かなれば記さず。

     昭和廿七年九月十四日
                         清水 長一郎

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  此の書は『上山路郷土調査』の寫本後、校正の合間に寫した。今ま  ではペン書きのものを中心に寫したが、これからは毛筆の古文書も  避けて通れないと考え毛筆の書を活字化した。一部判読不明の字や  ワープロに登録されていない字もあったが、外字登録などしないで  ワープロにあるままで使用した。原本に忠実に複写したので歴史・  地理・地学・植物等に疎い私なので、専門の先生に指摘される処が  あるかも知れないが、御容赦頂きたい。

     平成十六(二〇〇四)年三月十八日
清水 章博


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