十三日 天晴
天明に御所に参る、末だ格子を上げず、先達參りて御拝所を儲く、近臣の人々末だ出ざるの間、早出して前陣す、秋津王子に参る、春宮権太夫參會す、又山を越へて九王子に参る。次ミス山王子、次マカミ王子、次に稲葉王子(此の王子は五躰王子に准じて毎事過差と云々、御幸之儀は五躰王子に同じと云々)次に晝養宿所にいる、馬は此所より停めて師に預け置、是より歩指して、石田河を渡り、先ず一ノ瀬王子に参り、之を渡り次にアイカ王子に参る。河の間の紅葉の淺深の影波に映じ、景風殊勝なり(河の深き所は股に及ぶも袴をかかげずと云々)次に崔嵬の嶮岨を昇り、瀧尻宿所に入る、河灘の韻忙は嚴石之中也、夜に入り(使者遅く来ると云々)題を給ふ即これを詠じ持參す、例の如く披講之間、參入、讀上了り(題又参入これを読み上ぐ)退出し此王子に参り宿所に帰る
河邊落葉
そめなきをくれぬとたれかいはた河
またふみこゆるやまひめのそで
旅宿冬月
たきがはのひヽきはいそぐたひのいほ
志つかにすらるふゆの月かけ
一寝之後(輿舁の装束は法師の事)輿に乗る[師沙汰之力者十二人、豫め之を示し付す、、件の法師原の裝束十二を相具して師の布施送了る、紺藍摺ウハキばかり也、頭巾同相具す]今夜昼養山中宿に付す、此所は又不思議の竒異の小屋也、寒嵐甚難堪
十四日 天晴
天明に山中宿を出で、重照王子に参る、次に大坂本王子に参り次に山を越え了り、近露宿所に入る、[時に日出の後也]、滝尻より此所に至る崔蒐陂池目眩み魂転じて恍々、昨日の渡河に足聊か損す、仍って備えにに輿に乗る、 午の終りの時ばかり御幸(此の宿所御所に近く 田を隔つ 歩)、終って即ち題を給う、
峯月照松
又二首
さしのほるきみをちとせと見山より
松をそ月のいろにいてける
浜月似雪
くもきゆるちさとのはまの月かけは
そらにしくれてふらぬしらゆき
只今披講長房朝臣これを注して送る、驚き即ち持参するは僻事なり、供御の間と云々、即ち退出、秉燭以後又参上す、講縁阿闍梨召に依って蔀の外に参り読経す(読上げ了って退出)良久しうして召あり御前に参りまた読上げおわって退出(時に亥時)即ち輿に乗り出道し、渡河して即ち近露王子に参る。次にヒソ原、次に継桜、次に中の河、次にイハ神と云々。夜中に湯河宿所に着く(路間崔嵬夜行甚有恐)寒風なす方無、非時の水コリ有
十五日 天晴
天明の後、水終わりて[窮屈之間寝に付き了りぬ]、御所を見て禮し了る[此宿甚だ寒し山に依る此所今日の御宿也然れども儲先陣す]又出道今日の王子は湯河、次に猪鼻、次に發心門、午時ばかり發心門に着き、、尼南無房宅に宿す[此宿は尋常也、件の尼は京より參會して相逢うて會釋し着椎の所を給う]此道之間、常に筆硯を具せず、又思ふ所有り、末だ一事も書せず[他人大略王子毎に書き署す]此門の柱に始めて一首を書く、門の巽の角の柱也り(閑所也)
惠日光前懺罪根 大非道上發心門
南山月下結縁力 西剥雲中弔旅魂
発心門一句二首
いりかたき御のりのみかど今日すきぬ
いまより六のみちにかへすな
此王子の寶前、殊に信心を発す、紅葉は風に飜り、寶殿の上四五尺の木は隙間なく生ず。多は是れ紅葉也り。
社の後、尼南無房の堂此れ有り[此内に又一首書き付く、後に聞くに此尼制止して物を書かしめずと云々、知ずして書き了わんぬ]夕又水訖り王子御前に出で所作し了る。月山之間に出ずる也り。
今日之深山樹木、多有苺苔、懸其枝、
如藤枝遠見偏似春柳
十六日 天晴
拂暁、又發心門を出でて、王子二(内水飲、被殿)自祓殿より歩指御前に参る、山川千里を過ぎ、遂に寶前に奉拝す、感涙禁じ難し、是より宿所に入る、遅明更に祓殿に帰參特御幸を持ち奉るため也、[左中辨夜より此の邊りに在り]但し数刻、仍って近邊の地藏堂入る。衣食を取り寄せ暫く経て[寶前に参るの事]己の時ばかり御幸あり御供して寶前に参る[公私是云ぬれわらじの入云々]即ち御所に入御、終わり手すなわち退下、コリ訖り奉幣の装束を着し(新物、御奉幣は立烏帽子、ハバキツラヌキ)歸參数刻之後出御御奉幣あり(其間事)左中弁金銀の御幣を取りこを進む[取らしめたもうて御拜]此間親兼朝臣は白妙御幣を取る、御拜訖り祝僧(法眠)命ぜられて祝を申す、先ず証誠殿、次に両所[御幣は二本、前後両段の御拜は一社之儀の如し]次に若宮殿(御幣五)次に御所の御拜ハ御幣ノサキヲ右ニ持たしめたもう、次一萬十萬御前[御幣四御、皆前に同じ拝]祝申了りて退之間、予は被物を取って之を給ふ[立ながらそれを給、之れ所々毎度の事也]即ち御経供養御所に入御(礼殿と云々)公郷は西に在り、殿上人は東に在り、御誦経は俊家朝臣、親兼朝臣が布施を取り、次に公胤法印の御経供養了りて、公郷[被物]殿上人布施を取りて了りて予退下す。此間に舞・相撲等云々(御加持引物)其儀は見ず、咳病殊更に發してなす方なし、心神無が如く、殆んど前途を遂げ難し、腹病痛瘍等競い合さる。乘燭以後又コリ[此事臨時依病無術也]又晝装束を着す、[私奉幣]先達と相共に御前に参り奉幣す、其儀晝の御拜の如し(公私に替らず、弊のサキハ左ニムケテ)稠人の狼藉は淺猿(あさまし)、次に経供養所に入る(経供養の事 稠人に依って西経所と云々)導師來りて説法了る[被物一・裏物]次に火を滅す(爐に有火)加持僧十二人來り布施を置き[依分具之綿各七両]退出、此の経所の路より宿所にいる、病を抉けて又御所に参る。数刻、寒風病身爲す方無し、深更に召入れらる、二座の和歌、
發心門料二首 遠近落葉 暮写阿波
哥は几尋常に非ず、希有の不思議なり
予は窮屈病惱なす方無し
和歌二座事、發心門、本宮序
本宮三首、内府の序あり。
讀上了りて退出、心中なきが如、更に爲す方なし。
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